ユンクヴィルト工房 外見

トムベック氏へのことづけもの

ユンクヴィルト氏と筆者

成長過渡期のヴィーナーホルン

陳列された完成品たち
下に見えるのはナチュールホルンの
ボーゲンケース

一番弟子:ベッカムに似てる?

Jungwirth訪問記

文:中根 慎介/写真:阿曽 直樹

2004年6月15日
訪問者:阿曽・佐々木・中根
住所:Freishling21

 聖地訪問前に予めユンク氏にメールし、訪問当日の朝Wienから電話したところ、非常に友好的に対応頂き、16時にアポをとってやっと実現したものです(2002年訪問時はユンク氏がインフルエンザでダウンして表敬訪問できませんでしたので)。

行き方など:
 フランツ・ヨーゼフ駅からKrems行き(急行)にのってHadersdorfでHorn行きに乗り換え、Plank am Kampで下車、南に500m程歩いたところのRathaus(町役場)前電話boxからTELし、そこまで2番弟子(高校生くらい)迎えに来てもらいました(車で5〜10分程度のところに工房あり)。フランツ・ヨーゼフからPlank am Kampまで乗車時間は片道約1時間30分でHardersdorfまで9ユーロ、そこからナンボか忘れましたが急行料金は取られませんでした。めしを食うところがPlank am Kamp駅前にないので要注意(ハイチュウ2個でしのいだ)。
 予定より早く到着したためユンク氏は不在。代わりに1番弟子が案内してくれました(この1番弟子はヴィーンから毎日1時間かけて車で通勤している。ちょうどトムベック氏対応に役立っているようです)。

1.ヴィーナーホルンニューモデル(デーマル)
 新しい点はベルの板厚さが若干薄い(以前0.45mmでしたが、最近は0.42、0.40と薄型でも作成)ことと、バランスを考慮してチューニングスライドのポジションが上(バネ側)にくるようチューニングスライドに直結する管の巻き方を変えたことなど。
 ユンク氏は相当自信を持っているようす。値上げしないでねー。
製作した1本目は試奏した人が気に入って「これは俺のもんだ」とかなんとか言って持っていってしまったとか。2本目はトムベックさんがヴィーンでテスト中(翌日アイネムホールでのグランパルティータのリハーサルでトムベック氏が使用されているのを拝聴。聴いた感じはグッドレスポンスだがやや軽めのよう)。
トムベックさんの天才ぶりをユンク氏は語っていました。ちょっとした楽器の違いをちょっと吹くだけで即座に見事に言い当ててしまうらしい。相当神経も使うが彼のおかげですごく進歩できて感謝しているそうな。
 太鼓バネは最近のユンク機種には装着されていません。ユンク氏が来る前に1番弟子はギザギザのついた太鼓ばねが最新のバネだと説明してくれましたが、実際には初期のモデルにこのギザギザ太鼓バネが装着されていました。太鼓バネのコストは外バネの2倍以上(外注のため)で以前ユンク氏から聞いたところでは彼の友人が作成していたがリタイアしてしまったため、もう外バネしか作れないはずです。
 現在のJungwirth製の3番管抜き差し部は平行となっているのが特徴ですが、他社同様の形状をしたそれも作成してあって、なぜそんなんつくったのか理由を聞きましたが、従来の平行の方が抜けがいいと言わはるばかりで、はっきりとしたことは不明でした。

2.初期(?)ヴィーナーホルン作成
 むかしヴィーナーホルンが進化する課程で右の写真のような形をした楽器があったらしいのですが、これはドイツ人のあるホルン奏者が作成をユンク氏にオーダーしたため複製したのこと。隣の部屋の壁にその元となる古い楽器がありました。山西先生の記事でみたような形。試奏しましたが、音質が軽くてふわふわしてツボも私のもと全然ちがって吹きにくい。オーダーした人は何かいいところがあるに違いないと思ったのか、他人と違う楽器を所持したいと思ったかはわかりませんが、現在この形は生き残っていないということはそれなりの理由があるということですな。やはりヴィーンの奏者は全く興味を示さないらしい。

3.ナチュールホルン
 ユンクさんのHPにもあるとおりラウーモデル(クランツ付き)とライスマンモデル(クランツなし安価)があり、ライスマンモデルはフレアの中が黒。1番弟子が言うには板厚が薄いので磨きがかけられないとか。両者ともかなり重量が軽く、ユンク氏が言うには重量はもっとも重要で、各機種同一に調整しているときっぱりと言っておられました。私には自分のナチュールホルンと比べて軽すぎて吹きにくかった。慣れるとこちらの方が良いかもしれないですが、持ち方の工夫がないとストップ時に楽器が動きすぎてしまう。実音Gの音などがツボが狭く感じた。

4.ヤークトホルンの当時の製法再現
 ほとんどがハンドメイドで機械による作業を少なくし、ユンク氏自ら初めて作成したものとか。ベルの曲げた部分には均等にしわのような模様が入っており、博物館のものと同じらしいです。調はDes(415HzのD)。
 ヤークトホルンの場合、右手は外に出していたと通常思われていますが、博物館のオリジナルはベルの内側がすり減っており、手を内側に入れていた可能性もあるとか。

5.Hoch-F作成
 14年程前に試作したがやめてしまった模様。最近のヴィーナーホルンはヤマハ、ハーグストン、ユンクヴィルトなど性能を上げてきており、Hoch-Fを必要としないので特に熱意を持って作成するほどのモノではないとのこと。
 ユンク氏は棚から出さなかったが、ユンク氏が来る前に1番弟子が出して見せてくれており、ベルはWiener Hornのデーマルのベルがついていました。4ロータリーで小指で押す管が1番と3番を足した長さになっており、ピッチ修正のために装備されているもの(ちなみに私が作成中のHoch-Fも4ロータリーで1+3番管は親指で押さえるようにしている。いつ出来るか目処立たないが)。ユンク氏が見せてくれたわけでないので、写真は割愛します。

工房の様子
 何の遠慮もなく工房の中を見させて頂きました。さすが田舎だけあってゆったりと工作機械が置かれており、鉛の部屋は別になっていました。ヴィーナーホルン以外の完成品が売り物も含むのかもしれませんが、ちゃんと並べられておりました。胡桃が大きな箱に納められ机の下に置かれていましたが、何に使用するのか聞きそびれました。
 シュトース(ベルの次に来る管)のロウ目ローラー掛け作業を2番弟子がやっているのを見ることが出来ました。丸い管を一度平べったい芯金を通してローラーらしき機械にかけており、ユンク製のツメ(2枚の板がつながっているところに見える模様)が長くてもしっかりとロウ目つぶしが出来る理由がわかりました。

その他所感
 1番弟子も友好的でヴィーン市街地にあったころに訪問歴のある佐々木さんを覚えていました。現在は3人で製作しているということで多少、羽振りが良くなったのでしょう。
 ユンク氏曰く、「ナチュールホルンはここしばらくブームで受注が多く、それに加えてトムベック氏の力添えもあってヴィーナーホルンも売れ行きが好調で、ホルン製作者としてとてもいいビジネスができているし、これからも発展していけそうだ」、ということで目を輝かせていました。これからもいい楽器を世に送り出してますますヴィーナーホルン・ナチュールホルン奏者が充実し完成度の高い演奏ができるよう、そしてそれを聴衆やオケのメンバーが喜んでくれる、そんな楽器作りを継続してもらえることを願っております。