ウールマン・デーマルの特徴について

文:中根慎介

ウィンナホルンにはレオポルド・ウールマン(Uhlmann:ウールマン自身はウィーンの人)に代表されるボヘミア系の太ベルと現在(現代)のウィンナホルンに大きな影響を及ぼしたデーマル(Dehmal)の細ベルが存在します。現在、存在するウィンナホルンの違いは各部でいろいろありますが、以下、フレアー(ベル)の違いだけに関して述べます。


ユンクヴィルト(Jungwirth)の2つのタイプ。左が"ウールマン"で右が"デーマル"。

1.タイプ別特徴

 デーマルウールマン
音色
  • pp〜mfは深い(暗いというか落ち着いた音色)
  • ffはやや硬い(梗塞感・閉塞感がある。手の位置にもよるのかも)
  • 全体的にまとまりやすい
  • 明るく開放的
  • f〜ffが耳になじんだWiener Hornの音
  • 調子が悪いと音によってばらばらの音色になる(発音のしにくさにもよる)
  • Stutzen(俗に言う支え)や息のスピードがないと拡散しやすい
発音のしやすさ
  • しやすい
  • しにくい
出しやすい音域
  • 上は楽(どの音域も出しやすいが楽器の製造における調整はむずかしそう。Jungwirthもトムベックさんがいなかったらあそこまで出来なかったかも)
  • 低音域は硬い
  • 一般的に上はきついかも(ラルス師匠は別)
音程
  • たまに5線の真ん中の実音Fがぶら下がりぎみの楽器がある(Engel,Jungwirth)
  • ボーゲン・奏者などによる
  • ボーゲン・奏者などによる

<ご注意>
  • 発音のしやすさはボーゲン・マウスピースの影響の方も大きい。
  • 本来は同一ボーゲン・マウスピースによるテストをしなければいけませんが、そりゃ無理。

2.フレアー(ベル)形状から見たデーマル・ウールマン度

超デーマル デーマル ややデーマル ややウールマン ウールマン
Jungwirth Dehmal
AH399
Engel
YAMAHA
Ankel Uhlmann
Genossenschaft
Jungwirth
AH316
Ganter
Haagston
  • ちなみにDehmalそのものを所持している日本人はおそらくいません。Wienの人でも所持者が少なくモノが少ないのは、おそらく製造期間が短く、アンケルあたりの時代でとぎれてしまったためと思われます。
  • AH399は個体差が大きいのでややデーマルに入れるべきかもしれません。
  • ユンクヴィルトには2タイプ存在します。

3.その他コメント

  • あくまでフレアーだけの形状・テーパーから見た特徴づけ・分類なのでシュトース(フレアーの次の部分でWiener Hornの場合ここからバルブにつながるきわめて重要な部分でUhlman・Genossenschaft・アンケル・AH399はここまでつなぎ目がなく一体型)のテーパーなども本来は見ないといけません。
  • 奏者の分類もやろうかと思いましたが、複数の楽器を持っている人もいるし、変わりうることなのでやめました。でもWPhの奏者はそれぞれ特性を表していると思います。例えばトムベックさんは音色に関しずばぬけた身についたすばらしいものがあり、どちらかというと過去発音にお悩みだったと聞いたことがあるのでこれをカバーすべくDehmalタイプを吹いているのかもしれません。対象的にラルス師匠は技術的なことより耳になじんだWiener Hornの音色が忘れられなく、それを最優先に常に追い求めておられるようにも見えます。
  • Wiener Hornのフレアーのテーパーはフレンチホルンよりも勾配が急であり、管径が細くなるのが早いのが一般的です。この理由として、管長の長いF管に適したのはテーパーが急な方で、音色や発音のしやすさによるものかもしれません(ひょっとして、Wiener HornはただNaturhornと同様、クラシカルなだけかもしれませんが)。逆にフレンチホルン・hoch-Fホルンはテーパーが緩やかであり、これは管長の短い楽器の音程などにとって望ましいためと思われます。この点、アレキサンダーのウインナホルンとして売り出されているシロモノのフレアーはフレンチと同じであり、全くWiner Hornを冒とくしているというか、本気で製造にかかわっていないようです(パックスマンも同様?)。
  • ウールマンタイプの楽器の方が世の中に多く存在(累積)しているため、我々にとって耳になじんでいるのはウールマンタイプではないかと思います。しかし現代ではWPhといえど均一性などの要求特性が高まり、デーマルあるいはデーマルに近いタイプがWiner Hornとしても好まれるのかもしれません。このへんをうまくミックスしたのがエンゲル、さらには音程をかなり改良したヤマハであるとも言えます。

以上、現在までの私の不確かな認識や知識に基づいて書きましたが、ご異議がありましたらよろしくお願い致します。